こんにちは、税理士の太田圭子です。
今回は個人が事業を廃業した場合などに発生する「みなし譲渡課税」について、その内容とリスクを回避する方法をご紹介します。
1. 「みなし譲渡」とは
税に関する専門用語なので、あまり聞きなれない言葉かもしれません。
「みなし譲渡」とは実際に譲渡が行われていなくても譲渡をしたとみなして、課税が発生するという規定です。
所得税と消費税について、いくつかの規定がありますが、今回は個人事業者が廃業する場合に、思わぬ落とし穴となる消費税のみなし譲渡課税について解説します。
2. 「みなし譲渡」の具体例とその対応策
消費税の課税事業者である個人が廃業などに伴い事業用の資産を家事用に転用した場合に「みなし譲渡」が発生します。
具体的には、事業で使用していた建物を自宅に転用したり、営業車両をプライベート利用に切り替えたりといったケースです。
この場合、家事に転用したタイミングでその資産を「時価で譲渡した」とみなして消費税が課税されます。
例えば、時価3千万円の事務所を自宅に転用した場合、3千万円で譲渡したとみなされ現行では300万円の消費税負担が発生してしまいます。
実際に他者から金銭を収受したわけでも無いので、納税は自身の資金から捻出ということになってしまい、大きな負担となります。
この規定を、認識している事業者の方はごく少数であり、申告漏れが多数あることについて、会計検査院が問題視していることが、以前ニュースにもなっていました。
確かに一般の感覚では廃業したことによって、消費税が課税されることに違和感がある方も多いと思います。
だからといって申告しないと、延滞税などのリスクも同時に発生しますので下記のような対策をすることにより税リスクを抑えたほうが賢明です。
(対策1) 消費税の免税事業者になってから廃業する。
免税事業者であれば、消費税のみなし譲渡課税のリスクは発生しません。
従って状況が許せば、事業を徐々に縮小し、消費税の免税事業者になったタイミングで廃業すれば良いのです。
消費税の免税事業者になるには、大まかにいうと2年前の課税売上高が1千万円以下である必要があります。
例えば、2020年の課税売上が1千500万円ならば、2022年は課税事業者、2021年の課税売上高が1千万円ならば、2023年は免税事業者です。
従って、2022年12月31日に廃業すると、消費税の課税事業者が廃業したことになりますので、家事に転用した資産は消費税の対象となります。
ところが翌日の、2023年1月1日に廃業すれば、その時点では免税事業になっていますので、消費税を課税されるリスクはありません。
たった一日違いで大きな差が出ます。
ずいぶんと不公平に感じますが、現行の制度上の取り扱いは上記のようになっていますので、廃業のタイミングは慎重に考える必要があるのです。
(対策2)簡易課税を選択して廃業する。
廃業のタイミングで免税事業者となることが、不可能な場合で、基準期間(2年前)の課税売上が5,000万円以下であれば、簡易課税の選択を検討しましょう。
簡易課税ならば、みなし譲渡に課税される消費税の全部を納税する必要はなく、事業用資産の譲渡として、みなし仕入れ率60%が適用されることにより、みなし譲渡に係る消費税の40%部分のみを納税すればよいことになります。
但し、簡易課税の選択にも適用の前年中に届出を提出しておく必要があるなど、一定のルールがあり、事前の検討が必要です。
また、廃業に係る経費が多額になる場合などは簡易課税を選択しないほうが有利となることもあり、税理士にあらかじめシミュレーションを依頼することをお勧めします。