平成29年度の国交省の調査によると、所有者不明土地(不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない、または所有者の所在が不明で連絡がつかない土地)は国土の約22%を占めており、その原因の約66%が相続登記未了と報告されています。
高齢化の進展による死亡者数の増加等により、今後、更に所有者不明土地が増加することが予想されることから、所有者不明土地の解消と予防を促進するため、「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が令和3年4月21日に成立し、同月28日に公布されました。
そして、この法改正の重要項目である「相続登記申請の義務化と罰則の制度」については、令和6年4月1日から施行されることが閣議決定されました。
施行日以降、相続人は、相続や遺贈により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化され、正当な理由なくこれを怠った場合は、10万円以下の過料が課されます。
過料の対象範囲としては、施行日以降に発生した相続だけではなく、施行日前に発生した相続も含まれますが、相続登記を放置している不動産について、施行日後、直ちに過料の対象とすると混乱を招くおそれがあるため、「知ったときから3年以内」という規定にかかわらず、「施行日から3年間以内」に緩和する措置が講じられることになりました。
つまり、正当な理由なく相続登記を放置している不動産については、令和9年3月31日迄に相続登記または新設された相続人申告登記を申請しなければ、過料の対象となります。
勿論、正当な理由が認められる場合は、期限を過ぎても過料は課せられませんが、正当性の判断については、厳しい基準が設けられると予想されています。
そこで、従来の相続登記に加えて、相続人申告登記の制度が新設されました。
相続人申告登記とは、自分が相続人である旨を法務局へ申出ることにより、登記簿に住所氏名を登記してもらい、過料の対象とならないようにする制度です。
申出の際に提出する書類は、相続登記と比べると非常に少なく、手数料についても、数百~数千円程度となる見込みです。
相続登記の登録免許税(不動産固定資産税評価額×0.4%)と比べると非常に安く、他の相続人の協力がなくても、一人で簡単に手続きをすることができます。
なお、この相続人申告登記は、登記名義人が死亡した旨と申出人が法定相続人の一人であることを登記簿に記載する制度で、申出人が不動産の所有権を取得したことを意味するものではありません。
もし、後日の遺産分割協議により、申出人が所有権を取得しないものと決定したときには、所有権を取得した相続人が登記名義人(所有者)となる相続登記がされることになります。
また、相続人の内の一人から法定相続登記(法定相続分により相続人全員の名義を登記する方法)を申請することにより、相続人全員の過料を回避する方法もありますが、登録免許税の負担の他にも様々な問題点があります。
例えば、相続人の中に相続放棄者がいることを把握できずに申請してしまい、誤った法定相続分の登記となったり、申請人以外の相続人の登記識別情報(権利証)が発行されなかったり、そもそも法定相続分による分け方に不満をもっていた相続人の機嫌を損ねてしまったり等、相続人間の問題を増やしてしまう結果にもなり兼ねません。
このように、相続人申告登記や相続人の内の一人からの法定相続登記については、最終的な相続人(所有者)の権利内容と常に一致するものとは言えず、あくまで、過料の回避措置ということにとどまります。
過料を回避する登記をした後も、時間の経過とともに、相続人の高齢化に伴う後見人の選任や、新たな相続の発生による相続人の増加等、相続関係は更に複雑になるおそれもありますので、相続内容の話し合いや、相続登記の準備として、被相続人の死亡から出生まで遡った除籍謄本等を取り寄せることから始めてみてはいかがでしょうか。
法務局へ提出する遺産分割協議書については、期間の制限はなく、何年も前に作成した遺産分割協議書と同時期に取得した印鑑証明書でも無効になることはありませんので、まだ先のことだと思わずに、早めに作成することが重要です。
また、後日の相続に備えて、所有者が生前に遺言書を遺しておくことで、相続人間での遺産分割協議を不要とすることもできます。
特に、相続税がかかるケースでは、専門家の意見を聞きながら、遺産分割や遺言の内容を十分検討して、万全の対策を講じることをお薦めいたします。