平成30年8月に民法の相続法が約40年ぶりに大幅な改正となり、相続法の改正は、原則として令和元年7月1日が施行日となります。
相続法改正前は、遺留分の算定においても、特別受益について特に期間の制限はありませんでした。しかし、今回の相続法改正で、「遺留分侵害の算定」においては、特別受益としては、原則10年以内の生前贈与に限定されました。
ただ、遺留分侵害の算定ではない、相続人間の「遺産分割協議における遺産分割の割合(具体的相続分)」の特別受益については、遺留分算定の場合の特別受益と異なり、相続法改正前同様、特に10年という期間制限はありません。
以下、具体的な例をご紹介いたします。
【特別受益とは】
特別受益とは、一部の相続人が被相続人から特別に受けた利益のことをいい、被相続人から遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けたものを特別受益とされます。
生計の資本としての贈与は、通常の生活費の支援は特別受益とは認められません。通常の学費負担も特別受益とは認められず、医学部の授業料等高額な事案に限り学費負担も例外的に特別受益となります。マイホームの購入時の高額の頭金の支援など高額な贈与は特別受益と認定されます。
【遺産分割における特別受益の考慮】
遺産分割において、各相続人の具体的相続分を算出するとき、特別受益が考慮され、算定は以下の通りです。
遺産分割における各相続人の具体的相続分 =(【死亡時の遺産総額】+【全員の特別受益の総額】)×【当該相続人の法定相続分】-【当該相続人の特別受益】
例えば、被相続人の遺産1億円、相続人が長男、次男、20年前に長男が2000万円の生前贈与を受けていた場合、長男の具体的相続分=1億2000万円×2分の1-2000万円=4000万円、次男の具体的相続分=1億2000万円×2分の1=6000万円になります。
遺産分割における具体的相続分の特別受益については相続法改正前も改正後も特別受益について期間の制限がないことは変わりません。
【遺留分算定における特別受益10年の期間制限】
遺留分の算定においても、特別受益が問題になります。遺留分算定は以下となります。
遺留分算定 = 【遺留分額】 - 【遺留分権利者の受けた特別受益の金額】 - 【遺留分権利者の具体的相続分に相当する金額】+ 【遺留分権利者が承継する債務】
相続法改正前は、遺留分算定においても特別受益について特に期間制限はありませんでした(最高裁平成10年3月24日判決)。
しかし、今回の相続法改正で遺留分侵害の算定における特別受益は10年以内の生前贈与しか原則として特別受益として認められなくなりました。
例えば、被相続人(父)の遺産が1億円、相続人が長男、次男(遺留分4分の1)で、20年前に長男へ2000万円の贈与があった事案で説明してゆきましょう。
全ての相続財産を長男に相続させる遺言がある場合の次男の遺留分の金額は、相続法改正前と相続法改正で金額が異なります。
〇相続法改正前 → 次男の遺留分は、1億2000万円(遺産1億円+長男の2000万円の特別受益額)×4分の1=3000万円になります。
〇相続法改正後 → 20年前の長男の贈与は特別受益とは認められなくなるので、次男の遺留分は1億円×4分の1=2500万円になります。
このように、相続法改正後は、遺留分侵害の算定においては特別受益が原則として10年以内の生前贈与に限定されることになりましたので、相続法改正前と改正後では取り扱いが変わります。実際の算定には注意が必要ですので、専門家にご相談する事をお勧めします。
以上