法制審議会の民法・不動産登記法部会は、2021年2月2日、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」を決定し、2月10日に法相に答申しました。この要綱案の一番の柱は、「相続登記」や「氏名又は名称及び住所の変更登記」の義務化です。政府は今国会での関連法案提出を目指しており、法案が成立すれば数年内に施行される見通しです。
所有者不明土地とは、『不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地』です。その発生原因は、相続登記や変更登記が放置されていることにあります。所有者不明土地は全国で410万haと既に九州本島の面積を上回っており、このままいけば2040年には720万haに達して北海道本島の面積に匹敵すると試算されています。
その結果、国や自治体との関係では「公共用地として買収ができない」「災害対策工事が進められない」といった問題が起こっています。また、民間同士でも「売買ができない」「活用ができない」という状況が多発しています。
そこで、相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組みや、所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みを整備する観点から、民法及び不動産登記法を改正する今回の要綱案が出されたのです。
改正案の大きなポイントは以下の4つです。
①相続登記の義務化と罰則の制定
②氏名又は名称及び住所の変更登記の義務化と罰則の制定
③法務局による所有者情報取得の仕組みの制定
④土地の所有権放棄の制度化
それぞれ、概要をみておきましょう。
①相続登記の義務化と罰則の制定
相続人が相続・遺贈で不動産取得を知ってから3年以内に登記申請することを義務化し、違反者は10万円以下の過料の対象とします。相続開始から3年以内に遺産分割協議がまとまらずに相続登記ができない場合は、法定相続分による相続登記をするか、自分が相続人であることを期間内に申請 (仮称:相続人申告登記)すれば過料は免れます。相続人申告登記では、申請した者の氏名・住所などが登記簿に記載されることになります。ただし、法定相続分による相続登記や相続人申告登記をした後に分割協議がまとまって自らが不動産取得した場合は、それから3年以内に登記しなければやはり過料です。また、相続人に対する遺贈による登記や法定相続登記後の遺産分割による登記などについて、現行法では他の相続人等との共同申請となっているものが簡略化され、登記権利者が単独で申請することができるようになります。
そして、このような相続登記促進のため、所有している不動産の一覧情報(仮称:所有不動産記録証明書)を所有者本人やその相続人が法務局に交付請求できる制度も新設されます。
②氏名又は名称及び住所の変更登記の義務化と罰則の制定
所有者である個人や法人の氏名又は名称及び住所の変更があった場合は、その日から2年以内の変更登記申請を義務化します。違反者は5万円以下の過料対象です。
③法務局による所有者情報取得の仕組みの制定
法務局(登記官)が、住民基本台帳ネットワークシステム又は商業・法人登記システムから所有者の氏名又は名称及び住所の変更情報を取得し、職権で変更登記をすることができる仕組みを作ります。ただし、所有者が個人であるときは、本人への意向確認と本人からの申出を必要とします。
そして、この仕組みを可能とするため、今後新たに個人が不動産登記をする場合は、生年月日等の情報を法務局に提供することが義務化されます。ただし、生年月日が登記簿に記載されることはありません。法人の場合は、商業・法人登記システム上の会社法人番号等が登記簿に記載されるようになります。
また、国外に住所のある所有者に対しては、国内の連絡先となる者(第三者を含む)の氏名又は名称及び住所等の申告が義務化され、それらの情報が登記簿に記載されます。
④土地の所有権放棄の制度化
相続等により土地を取得した者がその所有権を放棄して土地を国庫へ帰属させることが可能となる制度を新設します。対象となるのは「建物がない」「担保権等が付いていない」「土壌汚染がない」「境界について争いがない」「管理又は処分にあたって過分の費用又は労力を要する土地でない」等の条件を全て満たした土地に限られます。
また、申請時の手数料と、国が10年間管理するのに必要となる標準的な費用(200㎡の宅地で80万円程度が目安)を申請者が納付しなければなりません。
以上の改正案は不動産登記法に関するものですが、関連する民法も同時に改正される見込みです。「相続開始から10年間遺産分割がまとまらなければ法定相続とする」などです。
現時点で相続登記や変更登記が未了となっている不動産が即登記義務化の対象となるわけではありませんが、遅かれ早かれ改正法施行後に相続や住所等の変更が生じればその対象となります。そのときに、既に何世代にも渡って登記が放置されていたりすると、正しく登記するまでに相当な時間と労力を要することになります。また、放置がまだ1世代で権利者が全員存命だったとしても、その中に認知症等で判断能力に問題が生じている者がいれば後見制度の活用が不可避になるなど、こちらもかなり大変な手間が待っています。
改正法が施行されるまでの間に、専門家に相談のうえで、極力現状に即した正しい登記内容にしておくことが重要になるでしょう。