設立費用の安さから、資産管理会社を設立する際に合同会社を選択する方が増えてきています。たしかに、会社を設立するときの費用が株式会社と比較すると約14万円も安くなったり、役員の任期がないため再選(更新)の手続きが不要であったりと、合同会社を用いる事にはメリットがあります。
しかし他方で、合同会社には気を付けなければならない点もあります。
会社法の規定では、合同会社の社員(出資者)が死亡した時は、原則、退社することになっていて、死亡した社員の相続人は社員にはなれずに、出資持分の払戻しを請求する権利を取得することになります。唯一の社員が死亡によって退社すると、社員が一人もいなくなります。そして、社員がいなくなった合同会社は会社法の決まりでは解散してしまうことになっています。例えば、父親だけを社員にして資産を管理する合同会社を設立しているような場合に、突然父親が亡くなってしまうと、最悪の場合、会社が消滅してしまうことがあるのです。
この問題を回避するためには事前に対策を取っておくことが必要です。
◆対策① 合同会社に複数の社員を入れておく
社員が複数いれば、一人が死亡しても社員がいないということにはなりませんので、合同会社の解散は免れます。長男等の跡継ぎがいれば、その人に出資持分の一部を生前贈与したり、新たな出資をしてもらったりすることによって社員を増やすことができます。
もっとも、死亡した社員の出資持分は、その時の純資産の額に応じて相続人に払い戻す必要がありますので、合同会社の資産が流出してしまうことになります。
また、合同会社の経営に関する意思決定は、定款に議決権に関する定めがない時には、出資者全員の過半数の同意により行うものとされています。出資した金額に関わらず、一人一票となってしまうのです。
◆対策② 社員が死亡した際に社員の持分を相続人が相続することができる規定を定款に定めておく
定款にこの規定があれば、唯一の社員が死亡した場合でも、その相続人が合同会社の社員になれますので、解散することは避けられます。具体的な定款の記載例は、下記のとおりです。
例 (法定退社)
第●条 各社員は、会社法第607条の規定により、退社する。
2 前項の規定にかかわらず、社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合において、
当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継することができる。
但し、相続人が複数いる場合は、その全員が社員の地位を引き継ぐ事になりますので、相続人間で遺産分割協議が整わないとき等には、スムーズに事業を承継することが難しくなってしまいます。
その為、特定の相続人(長男等の跡継ぎ)に合同会社の出資持分を相続させたい場合は、あわせて遺言を作成しておくことが重要です。業務執行社員又は代表社員が死亡したときや、出資持分を承継した相続人が業務執行社員・代表社員になる場合は、合同会社の登記を変更する必要があります。
出資持分を承継する場合は、死亡した社員の相続人を特定するための出生時から死亡時までの戸籍や遺産分割協議書等が必要になりますので、登記を申請するための準備にかなりの時間を要することになります。
また、出資持分を払い戻した場合は、合同会社の資本金の額を減少させる登記が必要です。この場合には資本金を減少することを官報で公告し、債権者に対して通知することが求められており、さらに時間と手間がかかることになってしまいます。
ちなみに、後見開始の審判を受けた場合も、死亡した時と同じように退社することになっています。唯一の社員が高齢の場合には、社員を加える等の対策を講じる必要があるかもしれません。合同会社では定款自治が広く認められています。上記のような出資持分や社員に関する定めを設けたり、出資比率と関係なく利益を配分したりすることも可能です。
いざという時に困らないように、あらかじめ定款の内容を確認し、合同会社の置かれている状況に応じた規定を整備しておくことが肝心です。
以上のように、合同会社には株式会社と異なる点が多くありますので、ニーズに合わせて適切な会社形態を選ぶことが重要だと考えます。