こんにちは。
司法書士・行政書士・土地家屋調査士の西出です。
相続トラブルの増加や遺産の分け方でもめてほしくないという想いから遺言を残す方が増えていますが、一方で遺言の内容と異なる遺産分割協議をしたいが、できますか?というご相談も頂きますので、今回は事例をご紹介いたします。
<事例>
夫 A
Aの妻 B(既に死亡)
AとBの子 C、D、E、F、G
A所有の不動産 甲土地
令和1年5月10日 Aが死亡
令和1年5月30日 Aの公正証書遺言が見つかる
遺言の内容は、
①「甲土地を、C、D、Eに、3分の1ずつの割合で、相続させる」
②遺言執行者の指定は無し
令和1年6月10日 C、D、Eで遺産分割協議を行う
協議の内容は、「甲土地をC名義とする」
そこで、Cが不動産業者様に売却を依頼し、その不動産業者様から、弊職が相続登記のご依頼を受注したわけです。
論点 遺言内容と異なる遺産分割協議はできるのでしょうか?
これについては、判例があります(さいたま地方裁判所平成14年2月7日判決)。
(1)特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど の特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては,当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても,当該遺産については, 上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。
しかしながら,このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は,相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから,これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても,直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別,そうでなければ, 被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく,むしろ全相続人の意思が一致するなら,遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。 法的には,一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが,このような遺産分割は,相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが 可能であるし,その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても,全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり,ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから,前記判例は,その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から,これを不要としたのであって,相続人間において,遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず,その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。
(2)本件においては,本件土地を含むDの遺産につき,原告ら全ての相続人間において,本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ,Dが遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上,被告は本件遺産分割については,第3者の地位にあり,その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると,本件遺産分割の効力を否定することはできず,本件土地は原告らの共有に属すると認められる。
つまり、まとめると、
遺言者が、遺言と異なる内容の遺産分割を禁じた場合を除き、相続人全員(受遺者も含む)の同意があれば可能だが、遺言執行者がいる場合には、遺言執行と矛盾していない、あるいは、遺言執行者の同意が必要(東京地方裁判所平成13年6月28日判決)。
となります。
本件では、遺言執行者は居ないのですが、C、D、E、F、Gが相続人であるところ、C、D、Eのみで遺産分割協議を行っているため、このままでは、Cを登記名義人とする相続登記は出来ない旨をお伝えしたところ、遺言通りで良い旨の回答を頂いた為、C、D、Eを登記名義人とする相続登記を行うことになりました。
勿論、その後、DとEの持分をCに移転すれば、結果として、Cの単独名義とすることができるわけですが、課税の問題が発生してしまいます。
仮に、C、D、E、F、Gで遺産分割協議がまとまり、Cの単独名義とする相続登記を行う場合、贈与税の問題が発生するのかについては、国税庁のホームページで否定されておりますので、ご参照ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm
なお、本件は、「遺言があることを知ってした遺産分割協議」の事例であり、「遺言があることを知らないでした遺産分割協議」は、全く別問題となります。
そのお話は、稿を改めてさせて頂こうと思います。