【ご相談内容】
半年程前に、父方の祖父が亡くなりました。相続人は、私の父とその兄及び姉。ただし、私の父は既に他界している為、私を含む3人の子供が父の代襲相続人となっています。つまり、祖父の相続人は計5人ということです。
問題は、遺言書が3通出てきた事です。1通目は平成元年に作られた公正証書遺言。内容は、『遺産を父の兄へ70%と父の姉へ30%相続させる』旨のもの。
2通目は平成15年作成の自筆証書遺言。内容は、『遺産を父の兄へ60%、父の姉へ25%、私へ5%相続させる』 旨のもの。
3通目は平成21年1月作成の自筆証書遺言。内容は、父の姉 『長女○○に全て任せる』 この文章のみ。他界する間際に父の姉に書かされたのでは?との疑いを持たざるを得ません。
『複数の遺言書がある時は日付の新しいものが有効』 とはよく聞きますが、内容が明確に明記されていない3通目でも法的に効力があるのでしょうか
また、自分達で遺言書に優先順位が付けられない時(モメてしまった時)は、どうしたらよいですか? 裁判にすべきでしょうか?
また、どちらにしても父の代襲相続人である私達3兄弟は遺留分の減刹請求をしたいと考えています。しかし、私の父は生前に遺留分の放棄を申し立てていたようで、家庭裁判所による 『遺留分の放棄を許可する』 という審判書が残っています。代襲相続人である私達3兄弟には、遺留分の権利はあるのでしょうか?
【回答】
相続発生後に複数の遺言書が出てきた場合は、内容の抵触する部分については、日付の最も新しい遺言書が有効となります。「抵触」というのは、両者が両立できないことを指します。従って、今回のケースでは、外形的には平成21年1月作成の3通目の遺言書が有効ということになります。
ただし、「長女○○に全て任せる」という表現だけでは、捉え方によって色々な解釈ができそうです。「全財産を長女に相続させる」という意味ともとれますし、「財産分けの配分を長女に一任する」という意味にもとれます。あるいは、「相続手続き(遺言執行)を長女に任せる」という意味かもしれません。あまりにも表現が曖昧過ぎる遺言は無効となる可能性があり、もしそう判断されると2通目の遺言書が有効となります。
遺言書について何か疑義が生じた場合には、まずは相続人全員で話し合いです。疑義が生じた場合とは、大別すると、
遺言者本人が本人の意思によって記載したかどうかが疑わしい場合
形式不備により無効であると考えられる場合
があります。
例えば、
「○○が無理矢理書かせた遺言だから無効だ」というのは のケース、
「表現が曖昧だから無効だ」というのは のケースにあたります。
相続人同士の話し合いで遺言書の有効性について全員の見解が一致すればいいのですが、現実は各相続人の利害が一致しないために話がまとまらないケースが少なくありません。そういった場合は、最終的には家庭裁判所へ訴えてこれを決するしかありません。
なお、遺留分の件ですが、 『遺留分を放棄した人が相続開始前に死亡して代襲相続が起こった場合は、この放棄の効果は代襲相続人にも及ぶ』 というのが民法の規定です。従って、祖父様の相続に対するお父様の遺留分放棄が、家庭裁判所の許可を得て有効に為されているのであれば、その代襲相続人である3人の子供達には遺留分の減殺請求の権利はありません。
争いのない相続を実現させるためには、遺言書の作成が最も有効な対策の1つです。しかし、作成した遺言書の内容次第では、それが逆に争いの種になってしまうこともあります。今回のご相談は異なる内容の遺言書が複数出てきた例でしたが、そうでなくとも、遺言の内容の解釈を巡って争ったり、誰かの遺留分を侵害する内容だったために減殺請求の問題が出てきたり、本人の意思による遺言かどうかで疑義が生じたり、とにかく様々な争いのパターンがあります。
折角遺言書を作成するのであれば、それが原因で死後に争いとならないように、作成する際にはやはり相続の専門家に相談しながら進めて頂きたいものです。
また、一度作成した遺言書の内容を変更したい場合は、訂正で済ますのか、1通目を残したまま2通目を作成するのか、1通目を破棄した上で2通目を作成するのか等、これも相続の専門家の意見を聞きながら慎重に判断する必要がありそうです。