こんにちは。税理士の山方です。
近年不動産売買は一部落ち着いてきたとはいえ、まだまだ活況で、今も手持ちの不動産の売却を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか?
不動産の売買契約が成立したからと言って、その日に不動産を引渡してお金を受け取るわけではありません。通常「契約締結日」から登記準備等を進めて、契約日から数か月後に「引渡し・代金決済」となります。
では、「契約締結日」から「引渡し・代金決済」の間に相続が発生した場合には、税金の計算はどうなるのでしょうか?
1、相続税評価上の取扱いの原則
≪事例≫
被相続人甲が、土地の売買契約後、不動産の引き渡しを終える前に死亡しました。
財産については長男Aが相続することになりました。
売買契約締結の日 令和1年8月1日
相続開始日 令和1年9月1日
土地の引き渡し日 令和1年11月30日
手付金(8月1日) 1,000万円
引渡し日の残代金 9,000万円(土地売買価格合計1億円)
土地の評価額 7,000万円(財産評価基本通達による評価額)
この場合、甲の相続税計算上土地の評価額はいくらになるでしょうか?
≪回答≫
原則として被相続人甲の相続税計算上、土地の評価額は残代金相当額の9,000万円となります。
(契約により仲介手数料等の負担が決まっている場合はその金額を控除します。)
相続開始時点では、土地の所有権は被相続人に帰属しているわけですから、土地の評価額7,000万円でもいいような気がしますが、この場合、被相続は「土地」ではなく「残代金の求償権」を持っているものと考えることになります。(最判昭61・12・5)
2、譲渡所得税の申告の仕方で税額が変わる?
上記の例において、土地は先祖伝来の土地で取得価額が不明とします。
この場合は譲渡所得税が発生することになります。
では、譲渡所得税は被相続人甲の申告になるのでしょうか?
それとも土地を相続した長男Aの申告になるのでしょうか?
結論としては、被相続人甲・長男Aのどちらで申告するか選択することができます。
では、被相続人甲・相続人Aのどちらで申告するかで税金は変わるのでしょうか?
≪検討≫
・相続財産 手付金1,000万円 残代金9,000万円 合計1億円
・相続人 長男A 1名のみ
①被相続人甲が譲渡所得税の申告をした場合
【譲渡所得税】(令和1年8月1日分)
{1億円〔譲渡代金〕-500万円〔概算取得費〕-500万円〔譲渡経費〕}×15.315%〔所得税率〕=1,378万円〔譲渡所得税※〕
※被相続人甲は翌年1月1日時点で既に死亡のため、住民税は発生しません。
【相続税】(令和1年9月1日分)
(1億円〔相続財産〕-1,378万円〔税金負債※〕-3,600万円〔基礎控除額〕)×30%-700万円〔超過累進税率〕=806万円〔相続税〕
※譲渡所得税は被相続人甲の負債として、相続財産から控除されます。
【合計税額】
1,378万円〔譲渡所得税〕+806万円〔相続税〕=2,184万円〔合計税額〕
②相続人Aが譲渡所得税の申告をした場合
【相続税】(令和1年9月1日分)
(1億円〔相続財産〕-3,600万円〔基礎控除額〕)×30%-700万円〔超過累進税率〕=1,220万円
【譲渡所得税】(令和1年11月30日分)
{1億円〔譲渡代金〕 - 500万円〔概算取得費〕 - 500万円〔譲渡経費〕 - 1,098万円〔取得費加算の特例※1〕}×(15.315%+5%)〔所得税率+住民税率〕=1,605万円〔譲渡所得税・住民税※2〕
※1:1,098万円=1,220万円〔相続税〕×9,000万円〔土地価額〕/1億円〔総資産〕
※2:相続人Aは翌年1月1日時点で存命のため、住民税が発生します。
【合計税額】
1,220万円〔相続税〕+1,605万円〔譲渡所得税〕=2,825万円〔合計税額〕
上記の例では、被相続人甲が譲渡所得税を申告した方が641万円ほど税負担が減少することになります。実際の金額はケースバイケースですが、通常被相続人側で譲渡所得税の申告をした方が税負担は少なくなりますので、その際は税理士等へのご相談をお勧めします。
譲渡資産が農地の場合
上記の例は通常の宅地を想定していますが、譲渡資産が農地の場合は事情が異なるケースがあります。
宅地の場合は契約から通常2~3か月で決済となります。しかし農地の場合は開発許可等の事情により、契約から決済までの期間が長期化することもあります。契約上の決済日に間に合わず何度も遅延を繰り返し、場合によっては数年後に買主都合で契約自体が解除されることもあります。
この場合、譲渡代金がいつ入るかも不明のままに被相続人側で申告するのは、納税資金の問題からも現実的ではありません。
では、原則通り残代金で相続評価をして相続税を納付するのでしょうか?
実は、この場合の取扱いについて明確な基準はありません。考え方としては、「残代金の請求権」として確定的とは言い難いと判断できる場合は、単純に土地の評価額で評価することも認められます。(平15・1・24裁決)
実務上は、この判断は個別判断となるため、専門の税理士と事前によく話し合ったうえで申告するほかないものと考えられます。
まずは、相続に強い税理士を選ぶことが節税の一番の近道です。