明治32年の旧不動産登記法施行から十数年程前までの間に、所有権取得の登記が完了した際には、法務局から新所有者に対して、「登記済証書」が発行されていました。
「登記済証書」には、登記申請人が法務局へ提出した申請書の写しや売渡証書等に、登記が完了した証として、管轄法務局名入りの長方形の朱色のスタンプと、その枠内に受付年月日・受付番号が漢数字(稀に、丸形のスタンプにアラビア数字)で記載されています。
この所有権に関する「登記済証書」は一般に『権利証』と呼ばれていますが、不思議なことに「登記済証書」のどこにも、権利証という文字は見当たりません。
司法書士に登記の代理申請を依頼した場合には、司法書士事務所が使用している『登記済権利証』というタイトルのついた厚紙の表紙や封筒と一緒になっているため、判別し易くなっていますが、自分で登記をされた場合は、前述のとおり、法務局から発行された「登記済証書」に権利証という文字がないため、誤って捨ててしまったり、保管が十分でなく紛失したりすることがあります。
また、住所変更登記が完了した際に発行される「登記済証書」(所有権登記名義人表示変更と記載されたもの)やその当時の毛筆の古い登記簿謄本を権利証と勘違いしているケースも少なくありませんので、注意が必要です。
上記「登記済証書」から現在の「登記識別情報」制度への移行作業が、平成17年~平成20年頃までの間に各法務局で順次、実施されました。
そのため、この期間に所有権を取得された場合は、当該不動産を管轄する法務局の登記識別情報制度への移行実施日の前後によって、登記済証書または登記識別情報が発行されています。
登記済証書、登記識別情報のどちらも同じ所謂『権利証』として、大事に保管して頂くことに違いはありませんが、登記識別情報については、目隠しされている12桁の権利の番号を他人に見られてはいけませんので、番号部分の目隠しシールを剥がさず(最近のものは目隠し部分のミシン目を切り取らず)に保管することが重要です。
相続登記を法務局へ申請する際には、原則、『権利証』は必要ありませんが、不動産の権利関係の確認や調査に役立つことがあります。
相続財産のうち、相続人の方が把握している不動産以外の前面道路(私道)や団地の集会所等の共有持分の有無については、昔のことでよくわからないことも多く、固定資産に関する証明書に記載がない場合には、その共有持分の存在に気付かないことがあります。
後日の売却等の際に、このような共有持分が判明したときには、再度相続登記をしなければいけませんので、もし、権利証がある場合は、その権利証の中身や古い表紙に綴じ込んである登記簿謄本等をすべて確認することで、上記のような登記の漏れをなくし、二度手間を防ぐことができます。
また、近年の市区町村役場のコンピュータ化に伴う、住所に関する証明書(住民票の除票や戸籍の附票)の廃棄処分による登記書類の不足を補うものとして、相続登記に活用することもできます。
なお、相続登記を前提とする不動産の売却手続きの準備段階で『権利証』を紛失していることに気付いた場合でも、相続登記が完了すると、相続人に新しい登記識別情報が発行されますので、問題なく売却は可能です。
「登記済証書」と「登記識別情報」のどちらの『権利証』も、一度しか発行されず、再発行ができない大切な書類ですので、大事に保管することとあわせて、盗難による悪用を防ぐために、権利証・印鑑登録カード(印鑑証明書)・実印をまとめて自宅の同じ場所に保管しないようにすることをお勧めいたします。