2019年6月4日、日経新聞に金融庁の金融審議会がまとめた報告書についての記事がありました。「人生100年、2000万円不足」というものです。公的年金に頼った生活設計では資金が不足するため、年金以外の資産形成を促す狙いがあるようです。特に私たち現役世代にとっては、年金受給額や支給開始のタイミングなど、確かに年金だけには頼れない喫緊の課題かもしれません。
今回の「2000万円の資金不足」、「年金以外の資産形成」の記事を不動産の目線で見るとどうなるでしょうか。
報告書を見れば高齢世帯の1ヶ月の平均収入は20.9万円、平均支出は26.3万円であり、毎月約5万円の赤字に対して、貯蓄などの金融資産を切り崩さないといけないことになります。ここで注目したいのは、平均支出の内訳にある住居費が13,656円だということです。退職金による一括返済などで確かに高齢世帯には住宅ローンが残っていないケースもあり、今回の数字はいわゆる管理費や修繕費などが計上されているようですが、賃貸世帯の場合はどうでしょうか。
例えば夫婦2人暮らしで家賃が6万円であると仮定すれば、その分支出が増えて赤字額も10万円を超えるかもしれません。また、持ち家であれば、いざという時に売却して現金化することも可能であるため、持ち家か賃貸かは老後資金を考える上で重要な要素になりそうです。
いずれにしても今回の報告書では特別な支出(住宅のリフォーム費用や老人ホーム等の費用)は含まれていないため、早い時期から老後のライフ・マネープランの検討が必要になってきます。
次に、資産形成の手段としての不動産についてご紹介します。
不動産による資産形成といえば、マンションなどへの不動産投資やREITなどの言葉がすぐに思い浮かびますが、最近では不動産特定共同事業法(以下「不特法」とします。)に基づく小口化商品を目にする機会が増えてきました。特に現物の不動産価格が高くなっている昨今、1口1万円から始められる不動産投資や、各種税金対策としての効果が見込める商品もでてきています。
そこでまずREITから簡単にご説明しますと、REITとは「Real Estate Investment Trust」の頭文字をとった不動産投資信託を指し、一般的なイメージとしては株取引に近いものとなります。複数の不動産を運用する法人に対して出資することで、不動産のプロによる運用によって得られた収益を、それぞれの出資金の額に応じて分配されるタイプの投資です。
それに対して不特法に基づく小口化商品は、出資金の額に応じて不動産を所有するタイプの投資になります。したがってREITは法人に対して出資し、小口化商品は不動産への出資という点が大きく異なる点です。
また、相続税の節税という観点から比較してみると、REITや匿名型の小口化商品は、相続税に対する節税効果は見込めず、任意型の小口化商品であれば、相続税評価額で相続税の計算が可能であるため節税効果が見込めます。
このように、一口にREITや小口化商品といっても内容は様々で、ご自身の目的によって商品を選ぶ必要があります。勿論、子供達に数口ずつ小分けして分配することや、必要な時に一部または全部を現金化できる商品もあります。
つまりこれらの商品は、住宅だけではなくオフィスやホテルなど、様々な用途や予算に合わせた投資が出来ることも魅力であり、ニーズは今後一層高まるのではないかと考えていますが、当然メリットばかりではありません。それに伴うデメリットも商品によって異なっているため、専門家の説明をしっかりと受けたり、インターネットや書籍等で調べてみたりするなど、ご自身で確かな情報収集に努めることも重要と言えるでしょう。
これからは人生100年ではなく120年という時代に向かおうとしています。ご自身の資産を守り、増やし、そして安心して暮らせるよう、不動産との付き合い方をしっかりと考えたいですね。