相続財産が時価1億円の土地で、相続人が子供5人。
全員その土地を必要としていないので、売却して売却代金を5人で1/5ずつ分けたいというケースがあります。この場合、実務的には「換価分割」と「代償分割」という2つの方法が考えられます。
「換価分割」とは、一旦その不動産を5人全員で共有相続して、その後売却する方法です。
この場合は、不動産の共有持分(1/5ずつ)に応じて売却代金も分配されます。
「代償分割」とは、その不動産の全部を1人の相続人が相続します。そして、不動産の時価の1/5相当額を他の相続人へ各々「代償金」として支払う旨を遺産分割協議書に記載します。その後、不動産を相続した者がこれを売却し、売却代金の中から「代償金」を4人の相続人に支払う事により分割が終了します。
どちらの方法でも、最終的に相続人全員が2,000万円(売却代金の1/5)ずつの現金を手にすることができますので、どちらを選んでも問題ないような気がします。しかし、実はそうではありません。例えば、以下のような違いがあるからです。
①譲渡所得税の問題
不動産を売却した場合、売却益に対して譲渡所得税と住民税で通常約20%が課税されます。売却価額が1億円であれば、税金は約2,000万円です(取得費及び譲渡費用は考慮せず)。
このケースにおいて、「換価分割」による分割を選択した場合は、相続人5人が上記の1/5ずつの確定申告をする事となり、税金も1/5の400万円ずつを支払う事となります。つまり、各相続人が売却代金取り分の2,000万円から400万円ずつ税金を支払うため、最終的な手残りは5人とも1,600万円となります。
これに対し例えば長男が不動産を相続・売却して「代償分割」を選択した場合は、長男のみが2,000万円全額を納付する事となります。つまり、売却代金を単純に1/5にした2,000万円ずつを代償金として長男が他の4人に支払っても、長男だけ譲渡所得税+住民税2,000万円全額を負担しなくてはならないため、公平な分配にはならないのです(長男の手残り金額だけ0円となってしまう)。したがって、このケースでの「代償金」は、売却代金から税金を差し引いた8,000万円を1/5した1,600万円ずつとしておかなければなりません。このようにしておけば、確定申告の手間を除けば「換価分割」でも「代償分割」でも特に差はないと言えます。
②翌年の社会保険料の問題
公的保険は、会社員が入る健康保険、公務員等の加入する共済組合保険、自営業者等や自由業者等の加入する国民健康保険や75歳以上の高齢者の後期高齢者医療制度に大別できます。
この中で健康保険や共済組合保険は、不動産の売却で得た収入は翌年の保険料に影響を及ぼしません。ただし、扶養されている配偶者や親族が不動産の売却によって一定の収入を超えると、扶養から外れ、国民健康保険に加入する必要が出てくる場合があります。扶養から外れるか否かは保険者によって異なりますので、保険者への事前確認が必要でしょう。
一方、国民健康保険や後期高齢者医療制度の場合には、不動産の売却で得た所得(売却利益)は保険料に影響します。翌年の保険料が限度額まで上がったり、また、一時的に現役並所得者として3割負担となったりする場合もあります。
つまり、相続人の中にサラリーマンと自営業者がいるケースでは、以下のようになります。
「換価分割」の場合、サラリーマンの保険料は上がらないが、自営業者は上がる可能性が高い。
「代償分割」の場合、代償金を支払う人(不動産を売却する人)が自営業者であれば保険料が上がる可能性が高い。代償金を貰う人はサラリーマンでも自営業者でも保険料に影響なし。したがって、代償金を払う人がサラリーマンであれば、全員保険料に影響なし。
なお、保険料が上がっても翌々年にはまた元に戻ります。
③所得税法上の扶養の問題
最後に、「換価分割又は代償分割により不動産を売却する人」が親族の所得税法上の扶養(扶養親族)に入っている場合には、不動産の売却によって一時的に被扶養者が扶養から外れ、扶養者の所得税が上がる事があります。「換価分割」する場合は全員、「代償分割」する場合は代償金を支払う人は注意が必要です。
上記以外にも、相続税の取得費加算の特例や3,000万円特別控除の特例など、「換価分割」と「代償分割」のどちらを選択するかで適用の可否が分かれる税法上の特例があり、最終的な手残り金額が変わる可能性があります。 相続・不動産売却に際しては、是非当相続サポートセンターにご相談ください。