お世話になります。税理士の山方です。
今回は、夫婦間の自宅2,000万円贈与についてお話します。
【1. 概要】
親族間であっても不動産等の財産を贈与した場合には、もらった側に贈与税が発生します。
これは、原則として夫婦間でも同じことです。しかし、20年以上連れ添った夫婦だけが使うことのできる贈与税の非課税特例があります。これを「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」といいます。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得せるための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
通常2,000万円を配偶者間で贈与すると、695万円も贈与税が発生する事になります。しかしこの特例を使うと贈与税が0円で済みますので非常にお得な制度に見えます。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
【2. 配偶者2,000万円贈与の落とし穴】
配偶者に自宅不動産を渡す方法は、贈与のほかに相続という方法もあります。相続による財産の移転の場合は、相続税の対象となります。
しかしながら、配偶者が相続により財産を取得した場合は、原則1億6,000万円までの相続財産については相続税が免除されます。また、自宅の敷地については「小規模宅地の特例」と言って、相続税の計算上、評価額を80%減額して計算することができます。つまり、配偶者が取得する自宅不動産については、相続により取得しても相続税負担が高額になることは殆どありません。
相続税・贈与税の観点からみると、相続・贈与どちらのやり方でも税負担に大きな違いはないケースが大半です。
しかし、その他の税金については、贈与の方が税金が高くなります。不動産を贈与により取得すると固定資産税評価額に対して「不動産取得税3%」と「登録免許税2%」という税金が別途発生します。しかし不動産を相続により取得した場合は「不動産取得税」は免除され「登録免許税」も0.4%で済みます。例えば2,000万円相当の自宅不動産を贈与すると、「不動産取得税」「登録免許税」合わせて約50~100万円程度(財産の内容により異なります。)の税金が発生します。しかし相続の場合は最高でも8万円程度に抑えられます。
相続税対策のつもりで「配偶者の2,000万円控除の特例」を使うと、実は支払う税金が多くなったというケースもあるので注意が必要です。
【3. まとめ】
単純な相続税の節税対策としては、「配偶者の2,000万円控除の特例」は適しているとは言い難いです。
しかし、夫婦間の所有財産額に偏りがある場合などは節税対策として有効なケースもあります。夫婦間の所有財産額に大きな差がある場合、相続税は相続が起こる順番によって、税負担が大きく異なる事があります。そのリスクをなくすためには、ある程度夫婦の所有財産額を近づけておくことも重要です。夫婦間の所有財産額を近づけるという意味では、「配偶者の2,000万円控除の特例」は相続税対策として有効になります。
本来、この制度は長年連れ添った妻(夫)に自宅を税負担なく贈与して、老後の不安を少しでも取り除くというものです。そういった意味では、生前の贈与以外にも「遺言」や「民事信託(家族信託)」といった方法もあります。
自宅の贈与をご検討の際は、ぜひ専門家へご相談されることをお勧めします。