相続手続きの回避を目的に“遺言代用信託”
最近、以下のようなご相談が増えています。
夫婦二人暮らし。相続発生後は本人名義の銀行口座は凍結され、現金の引出しにはかなり時間と手間がかかると聞いているので、自分に万が一のことがあったときに、遺された妻がそのような煩雑な相続手続きを上手くこなせるのかが不安です。かといって、遠く離れて生活している子供たちがその手続きをするのは、現実的に難しいでしょう。葬儀費用や病院・施設への支払い、当面の妻の生活費などをどうのように確保しておくのがよいでしょうか。現金で手元に保管しておくのも、それはそれで心配ですし・・・。
預貯金口座の名義人の死亡により当該口座が凍結された場合、その払戻しを受けるためには、法定相続人全員で作成した遺産分割協議書か、亡くなった方の法的に有効な遺言書を金融機関に提出するのが原則です。
遺産分割協議書による場合、法定相続人全員の「署名」「実印による押印」「印鑑証明書」が必要になります。また、被相続人の出生から死亡に至るまでのすべての「戸籍謄本等」も提出しなければなりません。
遺言書がある場合も、自筆証書か公正証書かといった方式の違いや、遺言執行者の指定の有無にもよりますが、遺産分割協議書のときと同じように「署名」「実印による押印」「印鑑証明書」「戸籍謄本等」が必要になることも多々あります。
つまり、いずれにしても相続後の手続きにある程度の時間と手間を要するということです。
そのような面倒な相続手続きを回避するための事前対策としては幾つか考えられますが、その1つに遺言代用信託の活用があります。
遺言代用信託とは、例えば父親が元気なうちに、「委託者兼受益者:父」「受託者:長男」として現金〇百万円を長男に信託しておき、父親が亡くなると「受益者:母」となるように設計しておくものです。この場合、受託者である長男は託された現金を「委託者父 受託者長男」という名義の「信託口」口座で管理しておくことになります。従って、父親死亡時にもこの口座は凍結されることがありませんので、面倒な相続手続きは不要です。信託契約の内容に従って、比較的簡便な手続きで、新たな受益者である母親のために長男が即座に現金を利用することが可能となります。
なお、このケースでは、父親の死亡により母親に受益権が遺贈されたとみなされますので、長男に信託されていた現金は相続税の課税対象です。
遺言代用信託と似ているもので遺言信託というものがあります。遺言信託とは、簡単に言えば、「自分が亡くなったらこういう形の信託をスタートさせてほしい」という旨を遺言書の中に記載しておくことです。
遺言信託はあくまでも遺言の一種であるため、民法の規定に従った方式で作成しておかなければ、結果的に無効となります。また、遺言信託は相続発生後に遺言の執行手続きが必要となるため、前述のように時間と手間を要します。また、場合によっては、執行業務に関して相続人間での争いが生じてトラブルとなる可能性もあります。
一方、遺言代用信託は委託者と受託者との契約であり、遺言のような厳格な方式は定められていません。更に、遺言ではないため、相続発生後の遺言執行手続きも不要です。
相続発生後の面倒な相続手続きを回避するための、遺言代用信託。遺されるご家族のために、あなたも是非一度ご検討なさっては如何でしょうか。
ご相談は、いつでもご遠慮なく弊社までどうぞ。