我が国の平均寿命は、平成26(2014)年現在、男性80.50年、女性86.83年で、平成72(2060)年には、男性84年、女性90年超となることが見込まれています。一方で、自立して健康に生活できる期間を示す「健康寿命」という指標もあり、平均寿命通りに人生を過ごすとすれば、男性は最期の約9年、女性で約13年は「健康ではない期間」を送ることになります。
この平均寿命と健康寿命の差を生む原因の1つが認知症の発症です。2012年時点で、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は約462万人、認知症になる可能性がある軽度認知障害の高齢者も約400万人いると推計されており、実に65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”となる計算です。今後、平均寿命が延びれば、認知症になる人が更に増えるとともに、その期間も長期化することが確実視されています。
認知症等で判断能力が低下すると、自分の財産を管理したり、様々な法律行為を行ったりすることが困難になります。預貯金口座からの払出しや解約、不動産の管理・運用・売却などができなくなったり、悪質な業者に騙されたりするおそれも出てきます。また、判断能力のない状態の者とした契約は法律上無効となりますので、そのような状態の者と契約をしようという相手は普通いません。つまり、相手がまともな人であればある程、判断能力のない状態の者が何らかの契約行為を行うことはまず不可能ということになります。
一昔前は、親がそのような状態になると子が親のサインを代筆して済ませたりしていましたが、法令遵守が声高に叫ばれる今の社会ではそれは通用しません。そこで、成年後見制度の活用が考えられます。
しかし、成年後見制度では、後見人は常に家庭裁判所からの監督を受け、行った業務については定期的な報告義務が課せられます。また、本人の利益に反して本人の財産を処分できなくなりますので、売却は勿論、親族や同族会社への贈与や貸付けなども原則として認められません。相続税対策も相続人のためという側面が強いですから原則認められませんし、投資商品の購入もリスクがあるため許されません。つまり、成年後見制度には制約が多く、特に地主さんのように“柔軟で積極的な”財産管理・運用や相続対策を望んでいる方にとっては、けっして使い勝手がいいとはいえないのです。
そこで近年注目されているのが、2007年の信託法改正により格段に活用方法が広がってきた民事信託であり、その中でも特に、信頼できる家族に自分の財産の全部または一部を託す手法が“家族信託”です。
親が元気なうちに親子で信託契約を結び、子に賃貸不動産を信託します。その段階で登記簿上の所有権は子に移り、子は所有者としてこの賃貸不動産を管理・運用していきます。ただし、そこから生まれる収益(賃料収入-経費)はこれまで通り親のもの。収益が親から子へ移転しない以上、名義を子に移しても贈与税や不動産取得税は一切かかりません。そして、親が元気なうちは親が指導・アドバイスしながら子に賃貸事業の実務を教え、親に判断能力が無くなった後は子が自分の判断で引き続き親のために事業を進めていくことができます。子の判断で売却も可能ですが、売却益も親のものです。
親がいつまでも所有権を握っているから、万一認知症になったときに不都合が生じるのです。元気なうちに子に移しておけば、親の判断能力が無くなっても所有権者である子が自分の判断で賃貸事業をスムーズに継続できます。贈与なら子に重たい贈与税負担が生じますが、信託ならそれも無し。また、相続対策で不動産を買い替えたり建替えたり、そのためにローンを組むことも家族信託なら可能。手続きは全て子が行いますが、税務上の効果は親に帰属します。つまり、親の相続が発生する直前まで、親の意思を継いだ家族が相続税対策を実行し続け、相続税の軽減に繋げることが可能になるのです。
親の相続が発生したときには、信託していた賃貸不動産が子に相続されて相続税課税です。税務上は、信託を活用しない普通の相続と何ら変わりありません。あるいは、オーナー(父親)が亡くなったら配偶者(母親)に収益を受ける権利を相続させ、母親が亡くなったときに初めて子が収益を受けられるように設計することも可能。
また、賃貸不動産だけではなく、自宅や預貯金や自社株等の管理・運用・承継にも家族信託は効果的に使えますし、障害を持った子の将来のための活用方法もあります。ただし、親に判断能力が無くなってからでは間に合いません。親が元気なうちに我が家の財産承継について親子で話し合い、専門家に事前に相談することが必要です。
当社では、一般社団法人家族信託普及協会認定の家族信託コーディネーターを抱え、相談の受付から信託組成の判断、信託設計、信託契約後のフォローまで、必要な士業と連携しながらお客様の信託活用を積極的にご支援しています。いつでもご相談ください。