当社には現在年間300件程の相続相談が持ち込まれます。内容的に細かく見れば実に様々ですが、大きく分類すると問題解決の鍵はすばり自社株と不動産だと言っていいでしょう。
自社株の問題はまたの機会に挙げるとして、今回は不動産に絞ってお話します。
大多数の遺産には、不動産が含まれます。総務省の平成21年全国消費実態調査結果をみると、世帯主70歳以上の2人以上世帯では、家計資産に占める不動産の割合が60%を超えています。相続人が2人以上いれば、既に均等には分けられない財産構成になっているということです。
不動産は、まず遺産分割の場面において非常に厄介な財産となります。物理的に分けづらいからです。建物の場合、例えば台所は長女に、居間は長男に、寝室は次男にという風に分けるわけにはいきません。また、土地の場合も、ある程度の広さがある更地であれば分筆して兄弟姉妹で分けることも可能かもしれませんが、多くの場合は、分けてしまうと道路に面していない土地ができたり、あまりにも狭い土地になったりして、活用できない土地になってしまいます。
分けづらいからといって、共有にするのも問題です。共有は単なる問題の先送りに過ぎません。
共有となった不動産では、自分の持分のみを売却することが実質的にできません。
理論的には可能なのですが、実際は悪意のある人等以外には買い手はまず現れないと思われるからです。
売却するなら、共有者全員の同意の下に当該不動産全体を売却しなければならないでしょう。また、自分の持分を担保に入れて金融機関からお金を借りることも現実的にはかなり困難です。共有物件が賃貸住宅の場合には、賃料の改定や契約解除、集金方法については、共有者の持分の過半の同意が必要になります。
また、確定申告にしても、他の共有者と情報を共有しながら同意の上で毎年進めていかなければなりません。さらに、相続税の納税のために持分のみを物納することもできません。
遺産分割をして自分の財産となったにも関わらず、好きなように売却することも担保に入れることも物納することもできないということは、自分の財産でありながら自分のものではないのと同じです。好きなときにお金に換えられないものに、本当の意味での財産価値があるとは言えないでしょう。
また、時間の経過とともに、共有者自身にも相続が発生し、その配偶者や子等が新たな共有者として加わってきます。まったく血のつながりのない人達がいつの間にか共有者となっていることさえあります。数十年の時を経て、共有者の数は増える一方で、お互いの関係性は段々希薄になっていきます。こうなると、共有者全員の意見の調整もままならなくなり、売ることも貸すことも、場合によっては自分で利用することもできなくなります。
以上のことから、各々の不動産は極力単独所有となるような相続の青写真を描くことが重要だと言えます。そして、確実にそれを実現するには、遺言しかありません。しかし、不動産以外の財産が少ない場合は、不動産を相続する人が大半の財産を承継することになり、遺留分侵害という新たな問題が起きる可能性が出てきます。
遺留分の算定や遺産分割にあたっては、不動産の価額を幾らとみるかで争いになることも多々あります。元々、不動産は1物4価とも5価とも言われる代物ですから、どの価額を基に話し合いすべきかでもめるのです。
また、実家や先祖代々の土地に対する相続人間の思い入れの違いが問題になるケースもあります。さらに厄介なのは、不動産(特に土地)はある程度高額になる場合が多いため、生前贈与しづらいという点があります。
以上を踏まえ、生前に不動産をどのような形で保有し、いつ売却するか、いつ誰にどのような形で贈与するか、最終的に(遺言を使って)誰にどう承継させていくのかを考えることが、遺産分割対策のポイントとなります。同時に遺留分対策も必要でしょう。
税金面からも不動産は鍵です。まず、財産の中に占める不動産の割合が高ければ、相続税の納税資金が不足する可能性があります。では、生前に不動産の収益力を高めて賃料収入という現金をたくさん産み出せばいいかというと、そうすると今度は相続税そのものが高くなってしまいます。
相続税の節税対策は数々ありますが、その中でも賃貸不動産の新規取得は昔からある対策の王道です。何よりも即効性がありますし、しかも大きな節税が確実に実現できます。
ただし、事業リスクを抱える、分割しづらい財産が増えるといったデメリットも否定できません。
また、節税効果が最も高いのは不動産を取得した時点で、あとは時の経過と共に借入金は減る一方で収益は現金という形で手元に蓄積されていきますので、節税効果は徐々に薄れていきます。
従って、『賃貸不動産を新規取得したら相続対策は終了』ではなく、その後も定期的に現状を見直して、必要に応じて二の手、三の手の不動産対策を打っていく必要があります。家
家計資産に占める割合が最も高いのが不動産である以上、この不動産をどう上手に扱うことができるかで分割も税金も変わってきます。
つまり、多くの方の場合、『相続対策=不動産対策』なのです。不動産に強い専門家への早めの相談が、将来の相続の成否を分けることになるのです。