税務署に対しては様々な情報が各所から報告される仕組みがあり、私達の生活の実態が正確に把握できるようになっています。
各生命保険会社から税務署に提出される支払調書もその1つです。従来、主に次のような場合に支払調書が提出されていました。
・1回の支払金額が100万円を超える死亡保険金、満期保険金、解約返戻金等が支払われた場合
・同一人に対して年間に20万円を超える年金給付金が支払われた場合
そして、税務署はそれらの情報を基に、納税者の申告漏れを指摘してきたわけです。
ところが、この生命保険会社の支払調書には以前からある重大な欠陥が指摘されていました。
①契約者(保険料負担者)と被保険者が同一人でないケースで契約者が死亡して契約者名義を変更した場合、その時点での解約返戻金相当額が相続財産として相続税の課税対象となるが、保険金が支払われたわけではないため支払調書が提出されず、税務署がこれを把握できない。
②契約者名義を変更した後に死亡保険金、満期保険金、解約返戻金を受取った場合、本来は変更前の契約者が支払った保険料に対応する受取金は贈与税の対象となるが、支払調書は支払時点での契約内容で作成されるため、契約途中で名義変更があったことを税務署が把握できない。
つまり、①②の場合ともに、納税者自らが申告するか税務署が税務調査で見つけない限り、契約途中での契約者変更の事実を税務署が正しく把握することができないということです。
従って、契約者変更の時と保険金支払いの時と、2段階に渡って課税漏れが発生する可能性があり、なかには、この点を巧みについた脱税指南とも言えるアドバイスを行う方もいるようです。
そこで、これを何とか改善したいというのが数年来の国税庁の要望でしたが、平成27年度の税制改正によりついにそれが実現することになりました。
支払調書について次のような措置を講ずるとの改正案が成立したからです。
ⅰ.保険会社等は、生命保険契約等について死亡による契約者変更があった場合には、死亡による契約者変更情報及び解約返戻金相当額を記載した調書を、税務署長に提出しなければならないこととする。
ⅱ.生命保険金等の支払調書について、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載することとする。
この改正により、平成30年1月1日以降の契約者変更については、税務署に全て把握されることになりました。将来保険金を受けたったときに思わぬ課税を受けて驚くケースが、数多く出てくる可能性があります。
勿論、税法の趣旨に則った適切な申告・納税は当然です。将来の契約者変更を前提に保険加入しているようなケースも含め、今後契約者変更を行う場合は、それによって課税関係がどうなるのかを専門家に事前に確認しておく必要があるでしょう。hosi